揉めるのは倉庫でもラインでもなく、その中間にある在庫
MESとWMSの分担そのものは、言葉にすれば簡単です。WMSは倉庫内のロケーション別在庫を管理し、MESは製造中の仕掛在庫(WIP)を管理します。ERPは会計上の在庫を持ちます。3つとも在庫を持つのが正常な状態です。
にもかかわらずプロジェクトが止まるのは、この3つのどこにも素直に属さない在庫があるからです。
- ラインサイドの間口在庫(1日分の部品が置かれた棚)
- 前工程と後工程のあいだのバッファ置場
- 段取り替えのために出庫したが未使用の材料
- 検査待ちで保留中のロット
これらは物理的にはラインの近くにあり、システム的にはまだWMSの出庫処理が終わっていない、あるいは終わっているがMESの消費実績が立っていない状態です。この宙に浮いた在庫をどちらが持つかを決めないまま稼働すると、棚卸のたびに差異表を作る運用が定着します。
所有権の受け渡し点を1点に固定する
解き方は単純です。材料が倉庫からラインを通って製品になるまでの流れを1本の線として描き、在庫の所有権が移る点を、線上のどこか1点に固定する。候補は次の3つしかありません。
A(出庫確定時) が最も一般的です。WMSは出庫した時点で在庫を落とし、以後の現物はMESの管理対象になります。倉庫側の帳簿がきれいに保たれる代わりに、ライン脇の実数管理をMESが引き受けます。
B(工程投入時) は、ライン脇の棚をWMSの仮想ロケーションとして登録し、投入実績が立つまでWMSが持ち続ける方式です。倉庫と現場のあいだで在庫が消えることがなく、精度は高くなりますが、WMS側にライン脇の棚数だけロケーションを作る必要があります。
C(完成時に一括) はバックフラッシュ方式で、完成数量にBOMを掛けて材料を一括消費します。運用は軽い一方、どのロットの材料を使ったかが確定できないため、ロット単位のトレーサビリティが必要な業種では採用できません。
4つの連携パターンと向き不向き
受け渡し点が決まると、実際のインターフェースは次の4パターンのいずれかに落ちます。
| パターン | MES→WMS | WMS→MES | 向いている生産形態 |
|---|---|---|---|
| 出庫指示型 | 製造指図に基づく出庫要求 | 出庫実績(ロット・数量) | 多品種少量、指図単位で材料を揃える生産 |
| かんばん補充型 | 消費信号(かんばん・空箱) | 補充実績 | 繰り返し量産、部品点数が多い組立 |
| 後引き(バックフラッシュ)型 | 完成実績のみ | なし(ERP経由で調整) | ロット追跡が不要な汎用部品の消費 |
| 引当連動型 | 事前引当の要求 | 引当結果(ロット指定) | 有効期限・先入先出の統制が厳しい食品・医薬 |
同じ工場で複数パターンを併用するのが普通です。主要材料は出庫指示型、ねじ・ワッシャなどの汎用部材は後引き型、というように材料の性格で分けます。全材料を一律に扱おうとすると、どちらかの現場に無理が出ます。仕掛在庫そのものの設計は仕掛(WIP)管理で扱っています。
数が合わなくなる3つの典型ケース
- 戻し(返却)の経路が設計されていない:出庫したが使わなかった材料をラインから倉庫へ戻す処理がないと、MES側では消費されず、WMS側では出庫済みのまま宙に浮きます。受け渡し点を決めるときは、必ず逆方向の経路も同時に決めてください。
- 不良・廃棄の計上先が二重になっている:MESで不良として記録し、WMSでも廃棄出庫を打つと、同じ現物が2回減ります。どちらか一方を正とし、他方はその結果を受け取る側に固定します。
- ロットの分割・統合がWMS側でしか起きない:倉庫で1つのパレットを2つに分けた結果、MESが知らないロットIDが現場に現れます。ロットIDの採番権をどちらが持つかを、材料種別ごとに決めておく必要があります。
よくある質問
ERP・MES・WMSの3つに在庫があるのは異常ではないのですか?
異常ではありません。3つは目的が違うためです。ERPは会計上の資産としての在庫、WMSはロケーション別の現物在庫、MESは工程内の仕掛在庫を持ちます。問題になるのは「3つある」ことではなく、「どれが正か決まっていない」ことです。原価計算に使う数字はERP、現物を探すときの数字はWMS、作業の可否判断に使う数字はMES、というように用途ごとに正を決めれば、3つが並存していて構いません。詳しくはMESとERP・SCADAの違いでも触れています。
連携はリアルタイムにすべきですか、バッチでよいですか?
出庫指示と出庫実績はリアルタイム(数秒〜数十秒)が必要です。ここが遅れると、現場が材料を待つか、システムを見ずに現物で作業を進めてしまいます。一方、完成品の入庫連携と在庫の照合はバッチ(数分〜1時間ごと)で足りることが多く、夜間の突合バッチを1本入れておくと差異の早期発見に効きます。「全部リアルタイム」は構築費用が上がるだけで、業務上の効果は限定的です。どのインターフェースが業務を止めるかを基準に、個別に決めてください。
自動倉庫(AS/RS)やAGVがある場合、MESとの関係はどうなりますか?
自動倉庫の制御機は、ISA-95の階層で言えばレベル2に相当する制御装置です。MESが直接これを制御するのではなく、WMS(または倉庫制御システムWCS)が指示を出し、MESはWMSに対して「この指図にこの材料が必要」という業務レベルの要求を渡す構成が標準的です。MESから搬送機に直接指示を出す設計にすると、搬送機を入れ替えるたびにMESの改修が必要になります。間に1層置くことで、設備更新の影響を局所化できます。
