補助金がMES選定に持ち込む3つの制約
どの補助金制度を使えるか──ものづくり補助金・省力化投資補助金・IT導入補助金の対象範囲と考え方──はものづくり補助金・省力化投資補助金はMESに使えるかで扱っています。本記事はその先、補助金を使うと決めた企業の選定が通常とどう変わるかに絞ります。制約は3つです。
制約1:スケジュールが外部で決まる。 公募期間・採択発表・事業実施期限が制度側で固定されるため、要件定義→選定→契約→導入の全工程を公募カレンダーに合わせて逆算することになります。通常なら6か月かける要件定義を2か月に圧縮する判断が発生します。
制約2:交付決定前に発注できない。 ほとんどの補助金は、交付決定前に契約・発注した費用を対象外とします。つまり「採択されたら即発注できる状態」まで選定を終えておきながら、契約だけは保留するという宙吊りの期間が生まれます。この期間にベンダーの体制・見積もり有効期限を維持できるかが実務の急所です。
制約3:事業計画と実装が縛り合う。 申請書に書いた投資内容・効果目標は、採択後の変更が制限されます。選定前に書いた計画が、選定後に「その製品ではその構成にならない」と判明する事故は典型的な失敗パターンです。
制約下でも崩れない5つの選定条件
| 条件 | 確認する内容 | 理由 |
|---|---|---|
| 1. 制度対象になる提供形態 | 買い切り/サブスク/クラウド利用料のどれで提供され、使う制度の対象経費区分に載るか | 制度によりクラウド利用料の扱いが異なる |
| 2. 認定・登録の有無 | IT導入補助金の認定ツールか、登録支援事業者がいるか | 認定がないと使えない制度枠がある |
| 3. 見積もりの分解粒度 | ライセンス・導入支援・接続・ハードを分けた見積もりが出るか | 対象経費と対象外経費を申請書で分ける必要がある |
| 4. スケジュール弾力性 | 採択発表から実施期限までの短工期に対応できる導入体制か。不採択時の延期・撤回条件 | 交付決定前発注禁止と実施期限の板挟みになる |
| 5. 補助期間終了後の費用 | サブスクの場合、補助が切れた後の年額を5年分で試算したか | 補助金は初年度しか効かない制度が多い |
条件5は見落とされがちです。補助金で初期費用が半分になっても、月額費用は2年目以降すべて自己負担です。判断は必ずMESの導入コストで扱う5年総額ベースで行ってください。
候補になる製品タイプの例
補助金前提の案件で現実的に候補になりやすいのは、条件1〜3を満たしやすい次の系統です。
認定・支援実績を明示する国産パッケージ。 IT導入補助金の認定ツールであることを明示するFMES、ものづくり補助金・IT導入補助金の活用実績を持つIB-Mes、中小企業等経営強化法の支援対象製品である電子実装向けNeximなどは、申請実務に慣れた導入体制を期待できます。
低初期費用のSaaS型。 初期30万円〜・月額4.8万円〜と価格を公開するスマートFのような製品は、そもそも補助金なしでも初期投資が小さく、条件5(補助終了後の負担)の試算が簡単です。機能単位で段階導入できる実績班長のような形式も、申請書の投資内訳を書きやすい構造です。
なお、視野を広げると、中国では中小企業のデジタル化転換に対し都市単位で最大1.5億元(約30億円)の中央財政補助が投じられており、中小工場のMES導入スピードの差は制度設計の差でもあります。彼我の比較は中国のMES導入が速い本当の理由で扱っています。
申請前にベンダーへ投げる質問
- この見積もりを、使用予定の制度の経費区分(ソフトウェア費・クラウド利用料・導入費など)に沿って分解して再提出できますか。
- 採択発表から実施期限までが4か月だった場合、導入完了できますか。前提条件は何ですか。
- 不採択だった場合、この見積もりと提案条件はいつまで有効ですか。
- 貴社が導入支援した補助金案件で、実績報告まで完了した件数は何件ですか。
よくある質問
補助金の採択率を上げるために、ベンダーに申請書を書いてもらってよいですか?
見積もりの分解や機能説明などの技術資料はベンダーに出させるべきですが、事業計画の本体(投資の狙い・効果目標)を丸投げするのは危険です。採択後、その計画は自社が実行責任を負う文書になります。効果目標の数字は、達成可否を自社で判断できる粒度に自分で引き直してください。認定支援機関を使う場合も同じです。
補助金のスケジュールに間に合わせるため、要件定義を省略してよいですか?
全部は省略できませんが、圧縮は可能です。省略してよいのは機能の網羅的な洗い出しで、省略してはいけないのは「対象工程の確定」「実績データの粒度の決定」「既存システムとの連携キーの確認」の3点です。この3点が曖昧なまま契約すると、実施期限内に稼働しないリスクが跳ね上がります。要件の絞り方はMESの要件定義でつまずく5つの論点を参照してください。
補助金の有無を織り込んだ5年総額の試算手順を「MES費用シミュレーションの作り方」として公開しています。条件5の確認にそのまま使えます。
