2025年12月16日、欧州委員会が改正提案を提示した

MDR(規則(EU) 2017/745)とIVDR(規則(EU) 2017/746)は、施行以来「認証の遅延・コスト・中小メーカーの撤退」への批判が続いてきました。2025年12月16日、欧州委員会はこれに応える改正提案を提示し、業界団体MedTech Europeは「欧州の複雑な医療機器・診断ルールを修正する第一歩」と評価しました。2026年1月7日〜3月5日にパブリックコンサルテーションが実施され、現在は欧州議会・理事会の審議段階です。発効は早くて2027年以降の見込みです。

提案の柱はリスクベースの簡素化です(Arnold & Porter法律事務所の2026年2月の解説より)。

  • ブレークスルー・オーファン機器の優先経路:ローリングレビューと専門家パネルの支援により、市販前データを絞った認証取得を可能にする
  • 臨床評価の同等性経路の柔軟化:クラスIIb・IIIの機器で、新規臨床試験によらない同等性ベースの評価を使いやすくする
  • 証明書の有効期限の見直し:リスク上の根拠がある場合を除き、認証を無期限有効とする方向
  • ソフトウェアの分類見直し:一部の医療機器ソフトウェア・アクセサリを実際の臨床影響に応じて低リスク区分へ再分類
  • ノーティファイドボディの運用改善:構造化された対話、リモート監査、紛争解決メカニズムの導入
  • AI医療機器の二重負担の解消:AI Actとの並行適合を不要にし、MDR/IVDRの枠組みで対応可能にする方向

ただし、データ要件のスケジュールは止まっていない

改正提案が審議されている間も、既存規則のデータ関連要件は進みます。特にEUDAMED(欧州医療機器データベース)の透明性要件は2026年5月28日から適用が始まっており、新規機器モデルの登録、経済事業者の登録番号(SRN)取得、ノーティファイドボディ証明書のアップロードが求められます。

MDR/IVDR改正提案とデータ要件のタイムライン 2025年12月16日 改正提案の公表 2026年1〜3月 パブリック コンサルテーション 2026年5月28日 EUDAMED透明性要件の適用開始 2026年〜 欧州議会・理事会の審議 2027年以降 改正の発効見込み
MDR/IVDR改正のタイムライン。簡素化の審議と、データ要件の適用が並走している。

この並走が、医療機器メーカーのMES投資判断を難しくしています。「改正で緩和されるなら投資を待ちたい」という判断は、簡素化される部分(認証プロセス、臨床評価)と、簡素化されない部分(製造記録、UDI、市販後データ)を混同しています。

MESに直結する要件は改正後も残る

改正提案が触っているのは主に市販前(認証の取り方)です。市販後・製造段階の要件はほぼそのまま残ります。医療機器MESの設計で確認すべきは次の領域です。

要件MES側で必要になる機能
UDI(機器固有識別子)シリアル/ロット単位の個体識別、ラベル印字と印字検証、EUDAMEDへ登録するデータの整合
製造記録(eDHR)電子機器履歴記録。作業・部材・検査・逸脱の紐づけと電子署名
トレーサビリティ部材ロットから出荷先までの正逆両方向の追跡
市販後監視(PMS)苦情・不適合と製造ロットの照合を可能にするデータ構造
ソフトウェアバリデーション品質システムの一部としてのMES自体の検証。FDAとEUの規制動向で扱った非対称がここでも効く

eDHRと監査証跡の設計は医療機器MESの中核です。詳細はeBR・eDHRの解説監査証跡の解説を参照してください。また、AI医療機器の扱いはEU AI Actの高リスク義務延期の記事と合わせて読む必要があります。改正提案の「AI Actとの二重適合の解消」が成立すれば、AI搭載機器メーカーの負担構造は大きく変わりますが、これも成立を待つ話であって、現行法上の準備義務が消えたわけではありません。

日本の医療機器メーカーが取るべき読み方

日本からEUへ輸出するメーカーにとって、今回の改正は「規制が緩むからEU市場が楽になる」というより、「認証のボトルネックが緩和され、そのぶん市販後・製造データでの競争になる」と読むべきです。ノーティファイドボディの処理能力が改善すれば認証待ち時間の差別化要素は薄れ、UDI・PMSデータの品質と提出スピードが実務上の評価軸として残ります。

医療機器産業のMES選定・業界固有の論点は医療機器業界のMES導入で詳しく扱います。

よくある質問

改正が成立したら、いま進めているMDR対応のMES要件は無駄になりますか?

なりません。改正提案の中心は認証プロセス(市販前)の簡素化で、製造管理・UDI・トレーサビリティ・市販後監視といったMESに関わる要件は維持される方向です。むしろEUDAMEDの透明性要件が2026年5月28日から始まっており、データ整備の要求は増えています。

改正はいつ確定しますか?

2026年1月7日〜3月5日のパブリックコンサルテーションを経て、欧州議会・理事会の通常立法手続きで審議中です。政治合意の時期は見通せず、発効は早くて2027年以降とみられています(Arnold & Porter、2026年2月時点の分析)。審議過程で内容が変わる可能性があります。

クラスIの機器しか作っていなくてもEUDAMEDやUDIの対応は必要ですか?

UDIの付与・登録義務はクラスIを含む全クラスに段階的に適用されます(適用時期はクラスにより異なる)。自社機器のクラスと適用時期を確認したうえで、ラベル印字・データ登録をどのシステムが担うかを決める必要があります。