E-BOM・M-BOM・ルーティングは、別の目的を持つ別の情報

同じ「部品表」という言葉が、設計部門と製造部門と原価部門で違うものを指しているのが、この領域の混乱の出発点です。整理すると次のようになります。

E-BOMからM-BOMとルーティングへの展開図 E-BOM(設計部品表) 製品の機能構造 PLM/CADが正 作る順序の情報はない M-BOM(製造部品表) 作る順序に沿った構造 中間品・副資材を含む ERPまたはMESが正 ルーティング(工程表) 工程の順序・設備・時間 品目ごとに異なる MESの実行の骨格 展開 紐づけ 工程別部品投入リスト(MESが現場に配る情報) 第30工程で、部品Aを2個・部品Bを1個投入し、設備M-05で加工する 投入実績の記録 どのロットを使ったかを残す 誤投入の防止 違う部品を読んだら進ませない
E-BOMからM-BOM、そしてルーティングへの展開。MESが必要とするのは「どの工程で何を投入するか」であり、設計部品表そのままでは使えない。

MESが現場に配るのは、図の中央にある工程別の部品投入リストです。これはE-BOMからは直接作れません。E-BOMは製品の機能的な構造を表しており、「どの順番で組むか」「どこで副資材を使うか」は含まれないためです。

したがってMES導入では、M-BOMとルーティングを整備する作業が必ず発生します。この作業量は、対象品目数×工程数に比例し、しばしばプロジェクト全体で最大の工数項目になります。見積の段階でここを甘く見ると、そのまま遅延になります。

ERPのBOMをそのまま持ち込むと壊れる3つの理由

「ERPにBOMがあるから流用できる」という前提は、多くの場合成り立ちません。理由は3つです。

① 階層が原価計算の都合で作られている。 ERPのBOMは原価を積み上げるための構造になっていることが多く、工程の実際の順序とは一致しません。1階層で表現されている品目が、実際には4工程を経ている、というのは典型例です。この状態でMESに取り込むと、工程間の仕掛が表現できません。

② 副資材・消耗品が入っていない。 接着剤、はんだ、洗浄液、梱包材といった品目は、ERPでは間接費として扱われBOMに含まれないことがあります。ところがトレーサビリティの観点では、これらのロットこそが問題になる場面があります。食品や医薬品では特にそうです。どの副資材までMESで追跡するかを、規制と顧客要求から決めてください。全部を追うと現場の負荷が跳ね上がります。

③ 数量が「1製品あたり」で、投入単位と一致しない。 ERPのBOMは1製品あたりの理論値です。現場では、テープ1巻、ネジ1箱という単位で投入します。MESは投入の実体を記録するため、理論消費量と実投入量の差を扱える設計が必要です。この差をどう処理するか(歩留まりとして計上するか、棚卸差異として扱うか)を決めずに稼働すると、在庫が合わなくなります。

工程分割の粒度をどう決めるか

ルーティングをどこまで細かく分けるかは、MESの使い勝手を左右します。判断基準を表にします。

分割の判断分けるべき場合分けないほうがよい場合
実績登録その単位で進捗を知りたい登録操作が5分以内に何度も発生する
設備使う設備が変わる同じ設備内での連続作業
作業者担当者が変わる同一作業者が続けて行う
品質その時点で検査・判定を行う判定は後工程でまとめて行う
仕掛の滞留工程間で物が滞留・待機する一連で流れて止まらない
資格要件必要な資格・力量が変わる同じ資格で通しで作業できる

実務的な目安として、1工程の作業時間が5分を下回る分割は避けることをおすすめします。登録操作そのものに数秒から十数秒かかるため、作業時間に対する管理コストの比率が高くなりすぎます。逆に、1工程が1日を超える場合は、進捗が見えないため分割を検討します。

もう1つの判断軸が並行工程の扱いです。同時に2つの工程が走る(本体の加工中に部品のサブ組立を進めるなど)場合、直列のルーティングでは表現できません。並行を表現できる製品かどうかは、選定段階で確認すべき機能要件です。表現できない製品で無理に運用すると、現場が実態と違う順序で登録するようになり、実績データが使えなくなります。

設計変更をどう流すか

BOMとルーティングは静的なマスタではなく、設計変更のたびに更新されます。ここで必要になるのが有効日リビジョンの設計です。

  • 有効日:いつからこのBOM/ルーティングが有効か。切り替え日を指定して事前に登録できることが必須です。前日夜に人手で差し替える運用は、必ずどこかで事故になります
  • リビジョン:どの版で作ったかを実績に残す。設計変更後に市場不具合が出たとき、「変更前か変更後か」を切り分けられるかどうかが決まります
  • 切り替え時の仕掛品:切り替え日をまたいで工程内に残っている仕掛は、旧版で作り切るのか、新版に切り替えるのか。品目ごと・変更内容ごとに判断が変わるため、指図単位で版を固定できる設計が必要です

3番目が最も設計を左右します。原則として、製造指図の発行時点で版を確定させ、その指図は最後まで同じ版で流す設計が扱いやすくなります。工程の途中で版が切り替わる設計にすると、実績の集計とトレースが著しく複雑になります。

設計変更の情報がPLMから流れてくる場合、MESが受け取るべきはE-BOMの変更通知ではなく、M-BOMとルーティングに反映された結果です。E-BOMの変更をMES側で解釈する設計にすると、製造技術部門の判断がシステムの中に埋め込まれてしまいます。この境界の設計はMESとPLMの連携で個別に扱います。

整備の順番と、割り切りどころ

全品目のM-BOMとルーティングを揃えてから稼働する、という計画は、品目数が多い企業ではまず実現しません。現実的な進め方は次のとおりです。

  1. 生産数量の上位品目から着手する。 多くの工場で、生産量の8割は品目数の2割が占めます。この2割を先に整備すれば、稼働時点で大部分の生産をカバーできます
  2. 残りは「簡易ルーティング」で登録する。 工程を細かく分けず、受入・加工・検査・出荷といった粗い単位だけを持たせます。実績は取れますが分析の粒度は落ちる、という割り切りです
  3. 稼働後、実際に生産が発生した品目から順に詳細化する。 生産されない品目を先に整備しても、投資が回収されません

この進め方を採る場合、簡易ルーティングの品目が識別できるようにしておいてください。マスタに「整備区分」の属性を1つ持たせるだけで済みます。これがないと、分析結果を見たときに粒度の違いが原因だと気づけません。

なお、上位2割の整備であっても、マスタ設計で述べた中間品コードの採番と、製造指図の粒度の決定が前提になります。BOM整備を先行させると、途中でコード体系の変更が入り、やり直しになります。順序を守ってください。

よくある質問

M-BOMはERPとMESのどちらで持つべきですか?

原則はERP側です。MRPで所要量を計算し、購買につなげる必要があるためです。MESはそれを受け取り、工程への割り付け(どの工程で何を投入するか)の情報を付加します。ただし、ERPのBOMが原価計算用の構造しか持っていない場合は、工程展開したM-BOMをMES側で保持し、ERPには集約した形で返す構成をとることがあります。この場合、正がどちらかを文書で明確にしておかないと、設計変更時に二重更新が発生します。

品目数が数万点あります。ルーティングは全部必要ですか?

必要なのは「MESで実績を取る品目」の分だけです。実際に生産している品目に絞ると、数万点の登録があっても稼働品目は数百から数千に収まることが多くあります。まず直近12か月の生産実績から稼働品目を抽出し、その件数を確認してください。この抽出をせずに全品目を前提に見積もると、工数が過大になり、それを理由にプロジェクトが止まることがあります。

同じ製品を複数の設備で作っています。ルーティングは設備ごとに分けるべきですか?

分けずに、1つのルーティングの中で代替設備グループとして持つのが定石です。設備ごとにルーティングを複製すると、設計変更のたびに全部を更新することになり、更新漏れが起きます。ただし、設備によって工程順序や標準時間が実質的に異なる場合は別ルーティングにせざるを得ません。判断の境目は「同じ作業手順書で作業できるか」です。手順書が別なら、ルーティングも別にしてください。