前提:MESベンダーの会社そのものが変わる時代になった

2025年から2026年にかけて、MES/産業ソフトウェア業界の資本構造は短期間で書き換わりました。

  • GE VernovaのProficy事業は2026年3月6日にTPGへ6億ドルで売却が完了し、同3月17日にKepware・ThingWorxと統合された新会社Velotic(売上3億ドル超)が発足(ARC Advisory)
  • Schneider Electricは2026年6月30日、産業AI企業Cogniteを31億ドルで買収すると発表。CogniteはAVEVA配下に入ります(Automation.com)
  • Honeywellは2026年6月29日に3社分割を完了し、純粋オートメーション企業「Honeywell Technologies」として再出発(Honeywell公式)
  • 三菱電機は2026年1月13日、コンポーザブルMESのTulipのシリーズD(1.2億ドル、ポストマネー評価額13億ドル)をリードしました(Tulip公式)

調査会社Verdantixは2025年9月19日の分析で、「ベンダーの戦略的方向性を理解することが、ソフトウェア評価そのものと同じくらい重要になった」と述べています。これは営業担当との個人的関係では吸収できない変化です。詳しい経緯はMES業界の地図は2026年に書き換わったで扱っています。

局面を4つに分け、それぞれ別の関係を設計する

ベンダーとの関係は一枚岩ではありません。局面ごとに、こちらが持つべき交渉材料も、相手に求めるべきものも違います。

MESベンダーとの関係設計 4局面の図 ① 選定 主導権:最も強い ② 構築 主導権:急速に低下 ③ 定常運用 主導権:最も弱い ④ 再編・更新 主導権:一時的に回復 交渉力 打ち手 ・データ可搬性条項 ・作業区分の明文化 ・値上げ上限の設定 ・サポート終了の通知期間 打ち手 ・設計文書の受領 ・設定の内製移管計画 ・追加要件の凍結期限 打ち手 ・四半期レビュー会 ・障害と要望の台帳共有 ・ロードマップ開示要求 打ち手 ・資本異動時の再交渉権 ・製品統廃合の影響確認 ・移行支援の条件確定
MESベンダーとの関係を、選定・構築・定常運用・再編対応の4局面に分けたときの、こちら側の主導権と主要な打ち手。

図の曲線が示すとおり、交渉力は契約直後から下がり続け、更新期と資本異動時にだけ一時的に戻ります。したがって、稼働後に効かせたい条件は、すべて選定時に契約へ書いておくしかありません。

定常運用期の会議体は「議題を固定する」

稼働後のベンダーとの定例会は、放っておくと障害報告と請求確認だけの場になります。四半期に一度、次の5項目を固定議題にしてください。順序も重要です。

  1. 未解決の障害と回避策の一覧(件数ではなく、現場が毎日踏んでいる回避策を挙げさせる)
  2. 要望台帳の棚卸し(「検討中」のまま2四半期を超えたものは、実施するか却下するかを決めさせる)
  3. 次期バージョンのロードマップと、自社カスタマイズへの影響
  4. サポート終了予定のコンポーネント(OS、データベース、ミドルウェア、ブラウザ)
  5. ベンダー側の体制変更(担当者、開発拠点、パートナーSIの変更)

5番目を毎回聞くことに意味があります。開発拠点の移管や主要技術者の離脱は、障害対応の質に半年遅れで効いてきます。

再編ニュースが出たときに、24時間以内に確認すること

親会社の変更や事業売却が発表されたら、次の4点を書面で問い合わせてください。営業担当は「何も変わりません」と答えるのが通例ですが、書面の回答は残ります。

確認事項なぜ効くか
現契約の債務がどの法人に承継されるか売却スキームによっては契約主体が変わり、保守条件の再交渉が発生します
製品ロードマップの継続期間と、統廃合の有無買収側が競合製品を持つ場合、片方が「メンテナンスモード」に移る典型パターンがあります
サポート終了時の事前通知期間12か月未満だと、次期システムの選定・移行が物理的に間に合いません
価格改定条項の適用予定Proficy 2026は階層型サブスクリプションへ移行しており、体系変更が値上げとして現れることがあります

良いベンダーの見分け方は「断る内容」に出る

長く付き合えるベンダーには共通点があります。できないこと、やらないほうがよいことを、見積前に言うことです。

要件をすべて「対応可能です」と答えるベンダーは、実装段階でアドオン見積を出してくるか、標準機能を無理に曲げて次期バージョンで壊れる作りを残します。逆に「その要件は当社標準では実現できません。運用でこう吸収するか、別製品を検討してください」と言えるベンダーは、自社製品の境界を把握しています。

選定段階では、あえて自社の標準から外れた要件を1つ混ぜて反応を見るのが有効です。この観点はFit to Standard を貫くための意思決定とも直結します。

よくある質問

ベンダーを複数社にして依存を減らすべきですか?

機能が重ならない範囲なら有効です。MESとAPS、MESとBI基盤のように責任境界を明確に切れる領域は分けて構いません。一方、同じMESの機能を2社に分割発注すると、障害時に責任の押し付け合いが発生し、切り分けコストが分割による交渉力向上を上回るのが通例です。分けるならレイヤーで分ける、同一レイヤー内では分けない、が原則です。

保守費が毎年上がります。どう交渉すればよいですか?

稼働後の単発交渉では効きません。効くのは、①契約時に年次改定率の上限を定めておく、②ライセンス体系の変更(Capexからサブスクへの移行など)が起きたときの移行条件を事前に定めておく、の2点です。欧米ではMES予算がCapexからOpexへ移行し、更新のたびに条件が変わることが実務課題として認識されています。詳細はMESのライセンス体系で扱っています。

ベンダーの担当者が頻繁に替わります。対策はありますか?

担当者の固定を契約に書いても実効性は低いので、引き継ぎ品質のほうを条件化してください。具体的には、(1) 自社環境の構成情報・カスタマイズ一覧・既知の回避策を記載した引き継ぎ文書を、担当交代の30日前までに提出させる、(2) 交代後の最初の定例会に旧担当を同席させる、の2点です。文書が存在しない会社は、そもそも担当者の頭の中だけで運用しています。