KPIの問題は「測れない」ではなく「定義が揃わない」

MESを導入すればデータは集まります。しかし集まったデータからOEE(設備総合効率)や直行率を算出する段になると、必ず次の議論が起きます。段取り替えは停止時間か。計画保全は分母に入れるのか。手直し品は良品か不良品か。この定義が拠点ごと・ラインごとに違えば、数字は出るのに比較ができないという状態になります。

ISO 22400(Automation systems and integration — Key performance indicators (KPIs) for manufacturing operations management)は、この問題に対する国際標準の回答です。対象は製造オペレーション管理(MOM)、つまりISA-95で言うレベル3の領域であり、MESが算出するKPIの定義書として設計されています。

規格の構成──中核はPart 2の34項目

文書発行内容
ISO 22400-1:20142014年概要・概念・用語。KPIとは何か、どう記述するかの枠組み
ISO 22400-2:20142014年KPI 34項目の定義と記述(実務で参照する中核パート)
ISO 22400-2:2014/Amd 1:20172017年エネルギー管理のKPIを追補
ISO/DIS 22400-2改訂作業中Part 2の改訂版が国際規格原案(DIS)段階にある(2026年8月時点、ISOサイトで確認可能)

Part 2が定義する34のKPIには、OEEとその構成要素(可動率・性能効率・良品率)、直行率(first pass yield)、スクラップ率、手直し率、設備関連では平均故障間隔(MTBF)・平均修復時間(MTTR)などが含まれます。生産・品質・保全・在庫にまたがる、MESのダッシュボードに載る指標の大半がカバーされていると考えて差し支えありません。

各KPIは「構造化された定義書」として書かれている

ISO 22400の価値は指標のリストではなく、各KPIが同じテンプレートで構造的に記述されていることです。名称とIDだけでなく、計算式、計算式を構成する要素(element)、単位、値域、改善の方向(上がるべきか下がるべきか)、算出タイミング、想定される利用者などが1項目ずつ定義されます。

ISO 22400におけるKPI定義の構造を示す図 KPI:OEE(設備総合効率) = 可動率 × 性能効率 × 良品率 可動率 実稼働時間 ÷ 計画稼働時間 性能効率 基準サイクル×生産数 ÷ 実稼働時間 良品率 良品数 ÷ 総生産数 各KPI・各要素にテンプレートで付く定義情報 ID / 計算式 / 単位 / 値域 / 改善方向(↑↓) / 算出タイミング / 利用者 →「計画稼働時間に何を含めるか」まで規格側の用語で固定できる
ISO 22400のKPI記述構造。式だけでなく、構成要素・単位・タイミングまでがテンプレートで定義される(例:OEE)

この構造があるため、社内のKPI定義書を作るとき「ISO 22400-2の当該KPIをベースに、差分だけ自社定義を明記する」という書き方ができます。ゼロから定義を書くのに比べ、抜け漏れと解釈揺れが大幅に減ります。OEEの算出ロジックで起きがちな「拠点間で分母が違う」問題は、規格のtime elementの用語を使うだけでかなりの部分が防げます。

MESのKPI設計にどう落とすか

実務での使い方は3段階です。

  1. KPIの棚卸しをISO 22400のIDで行う。現在各部門が見ている指標を34項目に対応づけ、「規格に対応するもの」「自社独自のもの」を仕分けします。独自KPIが悪いわけではありませんが、独自であることを認識しているかどうかが重要です。
  2. MES要件に「KPIごとの構成要素」を書く。「OEEを表示できること」ではなく、「可動率の分母は計画稼働時間とし、計画保全は除外する」のレベルまで書きます。ISO 22400のテンプレートがそのまま要件記述のフォーマットになります。
  3. 多拠点展開では規格準拠を共通ルールにする。MESで見るべきKPIを拠点横断で比較したいなら、各拠点の裁量に任せず「定義はISO 22400、例外は本社承認」とするのが最短です。

周辺の動き──設備側の標準もISO 22400に寄ってきた

KPI標準の実効性は、元データを供給する設備側の対応で決まります。この点で注目すべきは、工作機械向けOPC UAコンパニオン仕様のumati/OPC 40501ISO 22400準拠のKPI算出に対応していることです。設備が規格準拠の要素データ(稼働時間、生産数など)を標準の語彙で出してくれれば、MES側のKPI算出は「定義の翻訳」ではなく「集計」になります。

また、Part 2は現在ISO/DIS 22400-2として改訂プロセスが進行中です(2026年8月時点でISOサイト上にDIS段階の文書が登録されています)。KPI定義書を整備する際は、改訂完了後に差分確認が必要になることを前提に、参照する版を明記しておくことをお勧めします。

ISO 22400に準拠すると、自社独自のKPIは使えなくなりますか?

使えます。ISO 22400は「使ってよいKPIのリスト」ではなく「共通に定義されたKPIの辞書」です。規格にない独自KPIを追加することは問題ありません。重要なのは、規格にあるKPIを名前だけ借りて中身の定義を変えないこと(変える場合は差分を明記すること)です。

34項目すべてをMESに実装すべきですか?

すべきではありません。34項目は辞書であって、必須要件リストではありません。自社の課題に対応する数項目から始め、定義だけは規格に合わせておく、というのが現実的です。KPIは表示する数より、定義が信頼され改善行動につながっているかで価値が決まります。

規格文書はどこで入手できますか?

ISOの公式サイト(iso.org)でPart 1、Part 2、エネルギーKPI追補(Amd 1:2017)がそれぞれ有償販売されています。各国規格協会(日本では日本規格協会)経由でも購入できます。購入前に、ISOサイトの規格ページで目次と概要を無償で確認できます。