定義:検体を軸に試験室業務を管理するシステム

LIMS(Laboratory Information Management System/試験室情報管理システム)は、検体(サンプル)の受付から、試験の割り当て、分析機器からの結果取り込み、規格判定、試験成績書の発行までを管理するシステムです。管理の軸は製造指図ではなく「検体」で、試験室のリソース(分析機器・試薬・標準品・分析者の力量)や機器の校正状態もあわせて管理します。製薬・化学・食品など、出荷判定に試験室の試験が必須となる産業で使われます。

誤解されやすい点:MESの検査機能とは「測る場所」が違う

MESの工程内検査LIMS
測る場所製造工程の中(インライン・現場測定)試験室(オフライン分析)
管理の軸指図・工程・ロット検体
典型データ寸法・重量・目視結果理化学試験・微生物試験・純度
判定の使い道次工程へ進めてよいか出荷してよいか(規格判定)

誤解されやすいのは「LIMSがあるから品質データはそろっている」という理解です。LIMSにあるのは検体単位の試験結果であり、その検体がどの製造ロットのどの時点から採取されたかという紐づけは、サンプリング計画とMES連携を設計しないと成立しません。逆に、試験室の分析機器接続や試薬管理までMESでやろうとするのは守備範囲の取り違えです。

なお、実験データを電子ノートとして残すELN(電子実験ノート)は研究開発寄りのツールで、品質試験の定型業務を回すLIMSとは別物です。

規制が試験室記録に求めること:米国GMPの条文で境界を引く

米国の医薬品GMP(21 CFR Part 211)は、試験室の記録と出荷判定の関係を条文で定めています。MESとLIMSのどちらに何を持たせるかを考えるとき、この条文が一つの物差しになります。以下は米国の医薬品製剤を対象とする規定ですが、化学・食品の品質試験でも、記録に求められる項目の考え方は近い部分があります。

§211.194(a)は、試験室記録に「規格への適合を確認するために必要なすべての試験の完全なデータ」を含めるよう求め、次の8項目を挙げています。

条文の要求(§211.194(a))持ち主MESとの関係
(1) 受領した試料の記述(採取元、数量、ロット番号などの識別コード、採取日、受領日)LIMS採取元と採取日時、ロット番号はMESのサンプリング記録から渡す項目
(2) 試験方法の記載と、方法の妥当性を示すデータの所在LIMSMESは持たない
(3) 試験に用いた試料の重量または容量LIMSMESは持たない
(4) 機器から得られたグラフ、チャート、スペクトルを含む全データ(成分、容器、工程中材料、製品、ロットを明示)LIMS対象ロットの明示のためにロットIDを受け取る
(5) 単位・換算係数を含む計算の記録LIMSMESは持たない
(6) 結果と確立された基準との比較LIMS判定結果だけをMESへ返す
(7) 試験実施者のイニシャルまたは署名と実施日LIMS承認者・承認時刻を保留解除の根拠として受け取る
(8) 原記録の正確性と完全性を確認した第二者の署名LIMS同上

この表の「持ち主」「MESとの関係」の列は条文そのものではなく、条文の項目を編集部がMESとLIMSの分担に当てはめた整理です。条文は記録に何を含めるかを定めているだけで、どのシステムが持つべきかまでは定めていません。

目につくのは、8項目のうちMES側が主役になる項目がほとんどないことです。MESに持たせるべきなのは、項目(1)と(4)が求める「どのロットのどの時点から採った試料か」という識別情報と、(6)(7)(8)の結果として確定した合否です。分析データそのものをMESへ二重に持たせると、記録の正本がどちらか分からなくなります。

§211.194は(b)(c)(d)で、試験方法を変更したときの記録、標準品・試薬・標準溶液の試験と標準化の記録、試験機器の定期校正の記録も求めています。MESの守備範囲に入りにくいこれらの管理が、LIMSの機能として語られる理由です。

出荷判定との接点:試験の完了とロットの調査

§211.165(a)は、各ロットを出荷前に最終規格への適合を試験室で確認するよう定めています。同(c)は、試料採取と試験の計画を文書化した手順に定めることを求めます。この「文書化されたサンプリング計画」の実行側を担うのが、MESのサンプリング指示です。

試験で規格外が出たときの接点は§211.192です。同条は、ロットまたはその構成要素が規格に適合しなかった場合に徹底的な調査を求め、調査は同じ製品の他ロットや関連しうる他の製品にも及ぶべきだとしています。調査の結論と後続措置は書面に残します。

ここで効いてくるのが検体とロットの紐づけです。規格外の検体が出たとき、同じ原料ロットや同じ設備を使った他のロットを引き当てられるかどうかは、MES側の製造履歴と、LIMS側の検体IDが結ばれているかにかかっています。LIMS単体では「その検体は規格外だった」までしか分からず、影響範囲はMESの履歴をたどって初めて確定します。

化学プラントでは、バッチごとの受入試験・工程内試験・出荷試験で検体の数が多く、この紐づけの重さがより直接に効いてきます。業種ごとの要件は化学業界のMESを、医薬品での位置づけは製薬業界のMESを参照してください。

実務でこの用語が出てきたら確認すべきこと

  • 検体IDと製造ロットの紐づけ方式。MES側でサンプリング指示を出し、検体IDを採番してLIMSへ渡す設計が、後からの追跡を最も確実にします
  • 判定結果の返し先。LIMSの規格判定をMESへ返し、不合格ロットの次工程投入や出荷をブロックする連携があるか。ここがないと「試験は電子、統制は人手」のままです
  • GMP環境なら試験記録の完全性。分析機器からの生データの扱い、監査証跡、再試験の管理はLIMS選定・バリデーションの中心論点です

よくある質問

MESとLIMSは両方必要ですか?

出荷判定に試験室の試験が必須で、試験項目や検体数が多い工場では、両方を置くのが一般的です。MESはロットの製造履歴と状態を、LIMSは検体単位の試験記録を持ちます。試験項目が少なければ、MESの検査機能で始めてLIMSを後から足す段階論もあります。判断の目安は、前処理に時間がかかる試験や試薬・標準品の管理があるか、規格外の調査手順を持つかどうかです。

MESとLIMSの境界はどこに引けばよいですか?

データの単位で分けます。ロットの状態(保留・解除)と製造履歴はMES、検体・試験・機器・試薬の記録はLIMSです。両者をつなぐのは検体IDとロット番号の対応と、承認済みの判定結果です。米国GMPの§211.194(a)が試験室記録に求める項目の大半は検体側の記録で、MESが持つ必要があるのは識別情報と確定した合否が中心です(編集部の整理)。

LIMSとQMSソフトはどう違うのですか?

LIMSは試験の実行(検体・分析・結果)を管理し、QMSソフトは品質の仕組み(文書・逸脱・CAPA・監査)を管理します。試験で規格外(OOS)が出た後の調査プロセスはQMS側、試験そのものの記録はLIMS側というのが典型的な分担です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス MESソリューション部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。