PoCが「延長デモ」になると何も決まらない
MESのPoCで最も多い失敗は、目的を決めないまま環境だけ用意してしまうことです。ベンダーはサンプルデータで一通りの機能を動かし、現場は「操作は分かりやすかった」と感想を述べ、報告書には「概ね良好」と書かれます。そして選定会議で「で、どの製品にするのか」という問いに戻ります。
もう一つの失敗は、PoCの範囲が広すぎるケースです。全工程・全機能を検証しようとすると、環境構築とマスタ整備だけで2か月かかり、その間に選定の熱が冷めます。
PoCは、書面で判断できない項目だけを対象にする活動です。機能の有無、規格対応、契約条件は書面で分かります。書面で分からないのは、実データを入れたときの性能、現場作業者の受容性、既存設備との接続、そしてベンダーの実装スピードの4つです。この4つに絞れば、30日で判定できます。
ガイドの構成(5フェーズ・18シナリオ・46判定項目)
配布資料はPDFのガイド本編(32ページ)と、Excel版のシナリオ台本・判定表です。
| フェーズ | 期間の目安 | 成果物 | 収録している様式 |
|---|---|---|---|
| 1. 目的定義 | 発注前 5営業日 | PoC実施要領 | 検証目的シート、除外項目リスト |
| 2. 範囲と環境 | 発注前 5営業日 | 環境仕様書 | データ準備計画、接続機器一覧 |
| 3. シナリオ設計 | 発注前 5営業日 | シナリオ台本18本 | 台本フォーマット、期待結果欄 |
| 4. 実施 | 20営業日 | 実施記録 | 日次記録票、課題管理表 |
| 5. 判定 | 5営業日 | 判定報告書 | 判定表(46項目)、稟議用サマリ |
検証シナリオ18本の内訳は次のとおりです。
| カテゴリ | 本数 | 代表的なシナリオ |
|---|---|---|
| 現場操作 | 6 | 実績登録、異常申告、指示の切り替え、手袋着用時の操作 |
| 設備接続 | 4 | 既存PLCからの信号取得、旧型設備の代替入力、通信断からの復帰 |
| システム連携 | 3 | ERPからの指図取込、実績戻し、マスタ同期のずれ |
| 性能 | 3 | 実データ量での画面応答、日次バッチ、同時接続のピーク |
| 運用 | 2 | マスタ変更の反映、権限変更と監査証跡の確認 |
シナリオ台本の書き方を4本抜粋
1. 現場操作:手袋・保護具を着けた状態で操作させる
台本には「作業者が通常業務で着用している保護具を着けたまま、実績登録を10回連続で行う」と書きます。測るのは所要時間ではなく誤操作の回数と、作業者が迷って手を止めた箇所です。タッチ操作の反応、ボタンの大きさ、確認ダイアログの多さは、この形でしか検証できません。現場端末のUI設計は稼働後の定着率に直結します。
2. 設備接続:最も古い設備を1台選んで入れる
新しい設備は接続できて当たり前です。台本では、工場内で最も古い設備・最も接続が難しそうな設備を1台指定します。信号が取れない場合の代替手段(作業者の手入力、外付けセンサ、既存の生産管理盤からの読み取り)まで、PoC期間内に提示できるかを見ます。詳しくは設備接続の現実を参照してください。
3. 連携:わざと不整合データを流す
ERPから取り込む指図データに、存在しない品目コード、数量ゼロ、日付逆転を各1件混ぜます。エラーとして弾かれるのか、無言で取り込まれるのか、エラーログに何が出るのか、誰が気づけるのかを確認します。稼働後のトラブルの大半は正常系ではなく異常系で起きます。
4. 性能:サンプルデータではなく実データ量で測る
デモ環境の数百件ではなく、想定する年間トランザクション量を投入した状態で、トレーサビリティの遡及検索を実行します。判定表では「1ロットの前方・後方追跡を何秒で返すか」を数値で記録します。ここは製品間の差が最も明確に出る項目の一つです。
PDF本編32ページと、Excel版のシナリオ台本18本・判定表46項目をまとめて無料でお送りします。貴社の工程に合わせたシナリオの組み替えもご相談いただけます。
合否基準の決め方
判定表46項目は「必達(1項目でも不可なら不採用)」「重要(重み3)」「参考(重み1)」の3区分に分かれています。運用上のルールは3つです。
- 必達項目は5つ以内に絞る。 必達が多いと、どの製品も落ちて選定が止まります
- 基準値は数字で書き、PoC開始前に封をする。 「応答3秒以内」「誤操作2回以内」のように事前に確定させ、実施中の変更を禁止します
- 不可だった項目は「回避策の有無」を必ず記録する。 不可がそのまま不採用とは限りません。運用でカバーできるのか、追加開発が要るのか、その工数はいくらかまで記録すると、判定報告書がそのまま稟議資料になります
PoCは有償になることが多いと聞きます。無償でやってもらうべきですか
どちらでも構いませんが、無償PoCは範囲が狭くなり、ベンダー側の稼働も限定されます。実データと実設備を使う本気の検証を求めるなら、有償のほうが結果的に判断材料は増えます。ガイドには有償・無償それぞれの標準的な範囲設定を併記してあります。
このガイド自体は無料ですか
無料です。ダウンロードにも、内容についてのご相談にも費用は発生しません。当社が提案側に入っていない選定でも、そのままお使いいただけます。
既に1社に絞ってからPoCを実施する予定です。使えますか
使えます。1社PoCの場合、目的は比較ではなく「その製品で本当に自社の工程が回るかの確認」に変わります。シナリオ18本のうち設備接続4本と性能3本は、単独PoCでこそ価値が出ます。判定表は「採用可否」ではなく「本番設計で決着させるべき課題リスト」として使ってください。
