2026年6月29日に完了したこと

Honeywell は2026年6月29日、Aerospace 部門のスピンオフをもって3社分割を完了しました。残された本体は Honeywell Technologies(ティッカー:HON) として、純粋オートメーション企業(pure-play automation company) に位置づけ直されています。

分割後の構成は次のとおりです。

Honeywellの3社分割後の構成と、MESに関係する領域 旧 Honeywell Honeywell Technologies HON/従業員5万人超 Buildings Industrial Process MESが関係する領域 Honeywell Aerospace HONA/2026年6月29日スピンオフ Solstice Advanced Materials AI/ソフトウェア基盤は Honeywell Technologies Forge(インテリジェンス層)と Accelerator(OS層) 出典:Honeywell プレスリリース(2026年6月29日)
Honeywell 3社分割の構成。MES/製造オペレーションに関係するのは左のHoneywell Technologiesの Industrial/Process セグメント。

Honeywell Technologies のセグメントは Buildings/Industrial/Process の3本柱、従業員は5万人超。AI・ソフトウェア基盤は Honeywell Technologies Forge(インテリジェンス層)と Accelerator(オペレーティングシステム)と説明されています。

CEO の Vimal Kapur 氏は、新会社の使命をこう表現しました。

産業セクターのオートメーションからオートノミー(自律)への移行をリードする

「オートメーションからオートノミーへ」は何を指しているのか

この表現は、Honeywell 固有のものではありません。同時期に、他社もほぼ同じ内容を別の言葉で述べています。

  • Rockwell Automation:グループプロダクトマネージャー Devin Burke 氏「AIは Rockwell の産業自律化(industrial autonomy)戦略で決定的な役割を果たす」(2026年8月11日、Plex QMS × FactoryTalk Analytics VisionAI 発表)
  • Critical Manufacturing:自社を MES ではなく「実行・コネクティビティ・分析・信頼できるAIを統合した Industrial Operations Platform」と定義(2026年3月25日)
  • AVEVA:ARC Advisory の分析によれば、MESを「プラント中心の取引システム」から「CONNECTへデータを供給するデータプラットフォーム構成要素」へ再定義

言葉は違いますが、指している方向は共通しています。「機械を動かす仕組み(オートメーション)」から「判断まで含めて任せる仕組み(オートノミー)」へ、製品カテゴリの説明を移しているという点です。この現象そのものについては、「MES」という語がベンダーの一次カテゴリから外れつつあるという記事で扱っています。

ただし、この言い換えが実際の製品機能の変化を伴っているかどうかは、個別に確認する必要があります。Gartner が2026年3月の Market Guide で「派手な機能ではなく測定可能な成果に集中せよ」と書いているのは、まさにこの検証を求めるメッセージです。

既存ユーザーが確認すべき5点

分社は、既存の保守契約とロードマップに影響します。Honeywell 系の製造オペレーションソフトを使っている企業は、次の5点を書面で確認してください。これは Honeywell に限らず、再編されたベンダーの製品を使っている場合に共通する確認項目です。

#確認項目なぜ聞くのか
1契約の承継先はどの法人か分社では契約が新法人へ移管されます。移管の事実と、移管後の契約条件(価格・SLA・サポート言語)が同一かを確認します
2製品ロードマップの公表予定時期分社直後はロードマップが出てこない期間があります。「いつ出るか」を聞き、出るまでの間の投資判断を保留するかを決めます
3サポート体制の物理的な所在分割で技術者が別会社に移ることがあります。自社の担当エンジニアが引き続き対応できるか
4価格改定の予定独立後は単独で収益責任を負うため、価格政策が変わる可能性があります。次回更新時の見積を早めに取ります
5共通基盤への統合方針Forge/Accelerator のような自社基盤への統合が進むと、既存製品の位置づけが変わります。統合のスケジュールと、既存構成の扱いを確認します

これは業界全体で起きているパターンである

Honeywell の分割は単独の事象ではありません。2025〜2026年に、産業ソフトウェア業界は次の規模で再編されました。

案件金額時期
Emerson → AspenTech 残り43%取得72億ドル(含意評価額168億ドル)2025〜2026年
Schneider Electric → Cognite31億ドル2026年6月30日発表
Schneider Electric → AiDASH3.5億ドル2026年
TPG → GE Vernova Proficy6億ドル2026年3月6日クローズ
ABB → Rotork55億ドル2026年
SoftBank ← ABBロボティクス53.75億ドル2026年
Honeywell 3社分割2026年6月29日完了

(出典:Forbes、2026年8月7日/ARC Advisory Group/Automation.com。詳細はMES業界の地図は2026年に書き換わったという記事を参照)

Verdantix のアナリストは、GE Vernova から TPG への Proficy 売却を評した2025年9月19日のコメントで、次のように述べています。

ベンダーの戦略的方向性を理解することが、ソフトウェア評価そのものと同じくらい重要になった

この指摘は、選定プロセスの実務に直接効きます。機能比較表を作る前に、そのベンダーが3年後も同じ資本構造で、同じ製品ポートフォリオを持っているかを確認する必要があるということです。

「分社は悪いニュース」とは限らない

再編を一律にリスクと見るのは正確ではありません。分社には、既存ユーザーにとって有利に働く面もあります。

投資の集中:コングロマリットの一部門だったときは、社内で他事業と予算を奪い合う立場にありました。純粋オートメーション企業になれば、収益はその領域へ再投資されます。Proficy が GE Vernova の中でエネルギー事業と並んでいた時期と、独立系の Velotic(Proficy+Kepware+ThingWorx、売上3億ドル超)になった後では、開発投資の意思決定の速さが変わる可能性があります。

意思決定の速度:事業部単位では通らなかった投資が、独立会社の経営判断として通ることがあります。

リスクの側:一方で、単独では規模が小さくなるため、次の買収対象になる可能性が上がります。また、コングロマリット時代の内部リソース(法務、グローバルサポート網、他事業との相互補完)が使えなくなります。

どちらに転ぶかは事前には判断できません。発注側にできるのは、ベンダーロックインの度合いを下げておくことと、保守契約の条項で移行時の権利を確保しておくことです。具体的には、データのエクスポート権、業務ロジックの仕様文書の提供、ソースコードエスクローの有無。これらは平時には使わない条項ですが、再編が起きたときに交渉力の差になります。

選定中の企業が取るべき態度

いま MES を選定中で、候補に再編の当事者が含まれている場合の実務的な進め方です。

  1. 再編を理由に候補から外さない。 再編は業界全体で起きており、外していくと候補がなくなります
  2. 代わりに、質問を1つ追加する。 「今回の再編後、この製品への開発投資額とロードマップは、再編前と比べてどう変わりますか。文書で示せますか」
  3. 回答の形式で判断する。 文書で示せるベンダーと、口頭で「変わりません」と言うベンダーの差が、そのまま情報開示姿勢の差です
  4. 契約に、承継時の条件維持条項を入れる。 事業譲渡・合併が起きた場合に、SLAと価格条件が維持されることを明記させる

老朽化したMESの延命判断を検討している企業にとっても、ベンダーの資本構造は判断材料になります。刷新の時期をベンダー側の都合に振り回されないためには、サポート終了日の公表ポリシーを事前に確認しておくことが有効です。

よくある質問

Honeywell Technologies は、MES市場でどのくらいの位置にいますか?

Mordor Intelligence が2026年8月3日に発表したMES市場レポートでは、主要5ベンダーとして Siemens、Rockwell Automation、SAP、ABB、Honeywell が挙げられており、市場集中度は「中程度」と評価されています。ただし、この5社はMES専業ではなくオートメーション全般の大手であり、MES単体のシェアを示すものではありません。また、MES市場の規模自体が調査会社によって2025年基準で144.7〜176億ドルと20%以上の開きがあるため、シェアの数字は定義に強く依存します。「主要ベンダーの一角」という位置づけまでは言えますが、順位を断定できる公開データは確認できていません。

分社によって、既存システムのサポートが打ち切られることはありますか?

分社そのものが直ちにサポート終了を意味することはありません。契約は通常、新法人へ承継されます。ただし、分社後の事業整理の過程で製品ポートフォリオが見直され、その結果として個別製品のサポート終了が前倒しされる可能性はあります。実務的な確認方法は、①契約の承継先法人名を書面で確認する、②その製品の公表済みサポート終了日と、終了日を変更する場合の通知期間を確認する、の2つです。ポリシーとして「終了の12か月前に通知」と定めているベンダーもあれば、明文化していないベンダーもあります。

「オートノミー」を掲げる製品は、実際に何が違うのですか?

現時点では、言葉の使い方がベンダーごとに揃っていません。当サイトが公開情報から確認できる範囲では、実装は3つの層に分かれています。①MES内蔵の対話UI(自然言語でKPIを照会)、②特定業務のAIエージェント(作業手順書生成、外観検査、レポート生成)、③MESの外側に置かれるAIオーケストレーション層(Siemens Intelligence Center X、AVEVA CONNECT+Cognite、Honeywell Forge など)。「オートノミー」と言われたら、この3層のどこの話かを確認してください。①と③では導入の難易度も期待できる効果もまったく違います。